2022-01-01から1年間の記事一覧
「また、会いましょう」 スプーンでアイスクリームをすくいながら、僕はそう言った。 「はい、是非。いつにしますか?」 「そうですね……次の休みの日に」 「それ、いつですか?」 「え~と、そうですね……いつ、お休みですか?」 そう訊くしかなかった。 休み…
来週、と約束したものの、再会の日が訪れたのは3週間も後だった。 普通の会社員である僕の休みが土日祝である一方で、販売職に就いている2番さんの休みはむしろ平日。 お互い、会うための都合をつけることができず、予定は後ろ倒しになっていった。 有給を取…
カフェを出た僕と2番さんは、駅までの短い道を並んで歩いた。 外は寒かったけど、気持ちは温かだった。 ホームが反対方向だったので、駅の構内で立ち止まって別れの挨拶を交わす。 「じゃ、もしよかったら、また近いうちに」 「よろしくお願いします」 「LIN…
無理をしている笑顔に、僕の胸は締め付けられた。 彼女なりに苦しんできたことに気付いて、根掘り葉掘り興味本位で訊いてしまったことを後悔する。 それでも、2番さんの心根というか素顔が見れた気がして、これでよかったのだと思える。 付き合いたい。 そん…
「彼氏さんと別れて、パーティーに参加したんでしたっけ。吹っ切るために」 「そうなんです」 「ちなみに職場の方だったんですか?」 「ん、まぁ……」 少し口ごもった感じ。 「上司ですか?」 「わかりますか?」 「年下と付き合うのは想像できないので」 「…
「えっと、いいねの方は、もらえなかったのが1人です」 今回のパーティーは当初、男女16対16だったところ、2名追加されて18人同士になった。 18人中、17人からいいなアピールを受けたことになる。 これは多いようで、それほど珍しいことではない。 ちょっと…
そっか、ついこの前まで付き合ってた男がいたんだ。 おそらく、多くの男性はそう思う。 彼氏くらいいたって別に普通なのに、それで反感を受けてしまうのが婚活パーティーだったりする。 長年つきあっていた彼女と別れたので参加しました。よろしくお願いしま…
ロビーで2番さんと再会した時には、すでに20時近かった。 「どこかで食事でもどうですか?」 2番さんが顔に手を当てて少し迷うような仕草をしたので、遅くなるのがあれでしたらお茶だけでも、と付け加えた。 翌日に仕事を控えた日曜の夜。 なんとなく落ち着…
2番さんを第一希望に。 それだけを選んでカップル希望の提出を済ませた。 グラスを手に取ったけど、中身はすでになく、空のまま元の場所に戻す。 彼女も送信を終えたようだ。 雰囲気でそれがわかったけど、会話をするのはためらわれる。 相手を選んだかどう…
そのアナウンスが聞こえてきて、タブレットの画面を切り替える。 ……あった。 人知れず胸を撫で下ろす。 当然、隣の2番さんも僕からのいいなアピールを受け取っているので、気になって横顔を覗こうとしたら、思わず目が合った。 お互い、照れながら軽く頭を下…
すぐにいいなアピールの送信時間になって、迷っているふりをしてそっと隣を窺う。 あんなに盛り上がったんだ、もちろんもらえるよね。 ライブBDを交換するって約束もしたわけだし…… それでも一抹の不安が残るのは、これまでの経験が絶対はないと教えているか…
その後、17人の参加女性とトークタイムを共有した。 2番さんを含めて計18名の女性と出会ったことになるが、元々は男女16対16だったので、予定よりも2人多いパーティーになった。 少し失礼な言い方になってしまうが、婚活パーティーは質よりも量、を標榜する…
「どれ買いました? 僕はやっぱりツアーの最初が観たくてナゴヤドームを選びました」 「私は……へへ、2つ買いました」 「マジですか!?」 「札幌と5月の東京ドームです。私も参戦したので」 「チケット当たったんですね~。羨ましいです。僕は全滅で……」 そ…
そして驚いたことに、僕なんかは比べ物にならないほど、2番さんは熱烈な安室ちゃんのファンだった。 そもそも男性と女性とではファンとしての在り方や推し方に違いがあるのは当然だが、僕が音楽的、ビジュアル的に好みだった一方で、彼女は自分の生活の一部…
このパーティーが開かれたのは2018年の初冬。 安室奈美恵さんが華々しく引退した年だ。 前年2017年9月20日にあと1年での引退を発表して以来、音楽業界にとどまらず文字通り日本全土を席巻するするような安室奈美恵フィーバーが巻き起こった。 2月から始まっ…
2番さんの職業は、予想した通り接客業だった。 販売員というので、なにを売ってるんですか、と訊くと、服です、と明るい声が返ってくる。 アパレルショップの店員さんだ。 高級ブランドというよりは、ショッピングモールなどにも入っているファストファッシ…
受付を済ませた僕は、スタッフに案内されて最初の個室へと向かう。 外がもう暗くなっているせいか、会場内の明かりはいつもより眩しく感じられて、それが少し虚しくて、なんとなく冬らしいと思った。 残念ながら一大イベントであるはずの自分の誕生日はイベ…
会場は久しぶりの有楽町だった。 参加人数は男女16対16。 欠席などなければ、16人のパーティー初参加の女性と会える。 僕が申し込むと男性側はすぐに締め切りになったので、特に男性に人気のあるテーマだとわかった。 前回の失敗した流れを考えれば、それも…
「映画好き集まれ」のパーティーが終わって一週間ほど。 カップリングして連絡先も交換した5番さんからは、メッセージのひとつも来なかった。 男性側から送るのが礼儀だとすれば、僕からも送らなかったので、当然の成り行きかもしれない。 それでも…… もし彼…
カフェに入った僕と5番さんは、窓際の席に座ってコーヒーカップを口元に運ぶ。 よく婚活情報誌なんかには、最初のお茶は短く済ます、長くても1時間、もう少し話したいと思えるところで切り上げるのが妙、なんて書かれている。 その真偽はともかく、概ねは賛…
いや、よかったのはもちろん、僕だってそうだけど…… 「じゃ、じゃあ、とりあえず一階の玄関前で待ってますね」 「わかりました」 場内アナウンスに従って、会場を退出してエレベーターに乗る。 女性が降りてくるまでには少し時間があるので、僕はお手洗いに…
「ありがとうございました」 カップル希望の送信を終え、グラスを取った拍子に5番さんと目が合ったので、いいなアピールをもらったお礼を言う。 5番さんははにかんだ様子で、ちょこんと頭を下げた。 相席した隣同士でいいなアピールを送る状況というのは、…
そうこうしているうちに、いいなアピールの結果がでた。 タブレットを更新すると…… 5個もらっていた。 1番さん、それに5番さんからも来ている。 よし! 嬉しさと安堵に息を吐いたのも束の間、すぐにカップル希望の選択に迫られる。 最もカップルになりたいの…
「どうでしたか?」 いい人はいましたか、という意味だろうけど、いいと思った人は彼女の友達なので、ちょっとずらして答えた。 「なかなか楽しいパーティーでしたよ。好きな映画の話もできたし。どうでした?」 「楽しかったですよ、私も」 照れが混じった…
その後、残り4名とのトークタイムを終えた僕は、最初の個室に戻った。 5番さんに軽く挨拶を済ませると、せわしなくタブレットをいじる。 いや、いじるふりだ。 参加女性のうち、いいなと思ったのは1番さんとお隣の5番さん。 その二人が友達だと知ってしまい…